je2egz’s blog

ごろごろなう



ともこちゃん

ともこちゃんとは、連絡が途絶えている。
結婚したので、子供ができて、それどころじゃないのだろう。

ともこちゃんとの出会いは、遅い時間の三ノ宮待ち合わせだった。
フォルクスワーゲンの店ということだったので、ナビの検索で西宮〜三ノ宮のフォルクスワーゲンの店を順に訪ねていった。しかしながら、これが結構たいへんであった。
フォルクスワーゲンの店は、数が限られている。ところが、ともこちゃんの指定したフォルクスワーゲンの店は、トヨタカローラフォルクスワーゲンの看板を掲げている生田神社北の店だったのである。
普通なら、会わずに終わっていたかもしれない、良く遅い時間まで待っていてくれたものだ。
小柄で目がぱっちりしていて、一見モデルか外人風な整った顔立ちである。
なにより真っ暗な時間帯だったので、白いワンピースが際立っていた。
職業ネイリストで、指ひとつひとつにミッキーマウスの顔が書いてあったのが印象的であった。
そのとき、祖母の葬儀とか仕事とか、いろいろ話してくれたので、その後も会うようになった。

ちょくちょく会うようになったのは、ともこちゃんの仕事場から自宅に送るようになってからである。
最初は苦楽園の駅で、この時は黒づくめの服装であった。
そもそも、美容関係は黒づくめなのだと、この時ともこちゃんに教わった。
仕事着が黒なので、普段着は白になる。
ネイリストというのは、店はともかく、働く人は最初安く、難儀な仕事だというようなことを聞きにまわることが送り迎えだった。
その頃は、ともこちゃんが寿司にはまっていて、芦屋の竹という店によく寄った。江戸前寿司の店で、カウンターの端だとタバコが吸えてよかった。その寿司続きで、太ったようなことを聞いた。
仕事面でともこちゃんが落ち込んでいたが、次第に明るく元気になってくると、ピンク一色で登場するようになった。
もともとピンクが大好きだったらしい。

一度仕事があけからバスで島根に葬儀で帰ることを聞いて、車で送ると遅刻しそうだったので、電車で三ノ宮のバス乗り場まで見送りにいったら、たいそう喜んでくれた。
長距離バスは便利だが、乗り遅れるとそれまで。ともこちゃんは発車したバスを追いかけたことがあるらしい。

しばらくすると、勤務先が梅田に変わった。
梅田から三ノ宮まで車で送るのは、良いドライブであった。このドライブのために、ナビのオーディオにともこちゃんの好きなマイケルジャクソンを入れておいた。
渋滞すると、いろんなことを話してくれる。葬儀の祖母は嫁ぎ先の長野で亡くなって納骨で里帰りしたらしい。アッシュという名の犬を飼っている。つまりは、葬儀で帰っている間、アッシュ君はどうなっているんだ?というような話で盛り上がった。
家に送るのは良いのだけれど、家の前のコンビニで降ろすと、信号のある横断歩道を渡らず、生け垣をショートカットするのにはまいった。小柄なともこちゃんは、坂のあるカーブでは車から見えないからだ。

とはいえ、それだけでは芸がないので、テニスをすることにした。
垂水のコートは平日だと空いているので、テニスが初めてというともこちゃんにぴったりである。
ウエア、シューズ、ラケットを買いにいった。ウエアはピンクが良かったのだろうけれど、流行ではないのでピンクは勘弁してもらった。
普段運動していないわりには、楽にボールに当てるようにすぐなった。二人なので60分で切り上げるのだが、けっこう良い運動になった。ともこちゃんも仕事とは違う疲れが心地よいと言っていた。

そのころだったか、カラコンをしているともこちゃんが結膜炎になった。医者で二本目薬をもらって直していた。ともこちゃん自身、人一倍瞳が大きいのに、その上にカラコンをするところが女性の不思議である。

なにかと会うのが定常化したころに、ふとこちらから疎遠になったときのことである。
疎遠になる理由を書いておくと
 ともこちゃんには、バンビ瞳の子供を産む使命がある
からである。

帰り際に「もう会えなくなるかと思った」と泣かれてしまった。
この時は、正直驚いた。生涯一度これ以上可愛い人はいないとおもっていたともこちゃんに、今風でいうとコクられたのである。
とにかく、東京でいうところの渋谷のセンター街みたいな三ノ宮の東急ハンズの前に路肩駐車している助手席で、泣きながらはぐしてというのである。人目が気になるので、形ばかりにした。
そのときほど、自分が年を取り過ぎたと感じたことはなかった。
その日は十分デートしていたので、明日の仕事に支障をださないようにすることしか頭になかったからである。

そそくさと帰ったから疎遠になったのではなく、今は会わなくてもラインやインスタグラムがあるから、普通にやりとりしていた。
実家が花屋だったそうで、花の写真の投稿に喜んでくれた。
しばらくし、以下がSNSに投稿された。

  たかしの好きなとこ。

  たかしへ
   重い荷物を持って軽い荷物をわたしにわたしてくれるとこ。いつもありがとう。
   雨降ったら傘を渡されるんじゃなくてあいあい傘をしてくれるとこ。ありがとう、うれしいよ。
   なのに、わたしにばっかりさしてくれて、たかしの肩が濡れちゃうのにそれでもわたしに
   さしてくれるとこ。ありがとう。
   駐車場いったとき清算まえにさきに車をあけてくれるとこ。絶対さきに清算した方が楽なのに、
   ありがとう。
   お仕事で遅くなってるのに遅くなってごめんな。っていってくれる。残業でがんばってるのに。
   ありがとう。
   いつもわたしのお財布事情を心配してくれるとこ。ごめんね、ありがとう。
   いつも、さまになっててひとつひとつこだわっててすごくオシャレなところ。
   わたしもがんばらなきゃ。
   わたしの気晴らしに明日カフェいこ。ってゆってくれるとこ。疲れてるのにいつもありがとう。
   わたしのこと心配してくれるとこ。いつもたかしが側にいるから心配無用なのに、
   大丈夫か?いけるか?ってきいてくれる。
   ありがとう。
   俺いらんからともちゃん服たくさん買い。ってゆってくれるとこ。たかしも服が大好きで
   お買い物好きなのに。ありがとう。
   そんなにがんばってないのに、たかしの方が100倍がんばってるのに、がんばってくれてる、
   いつもありがとう。しんどいやろ。って労いの言葉をくれる。たかしのためならひとつも
   苦じゃないよ。
   寝るときは寒いくらいじゃないと嫌やからエアコン、がんがんに寒いくらいにかけてるのに
   一緒に寝てくれる。もぉすこし気温さがるまでまってね。ありがと。
   わたしを可愛くしてくれる。かわいい。って思われたい。ってすごく思う。
   これも、がんばらなきゃ。
   わたしの行きたいところにつれていってくれる。一緒に付き合ってくれる。
   わたしのやりたいことに付き合ってくれる。
   記念日を毎月忘れずお祝いしてくれる。
   部下に慕われてる。たかしが上司ならわたしも尊敬しちゃう。
   わたしが寝てても腕枕してくれるとこ。
   わたしはさき寝るとき真っ暗で寝てるのに、たかしが寝るときはライトをつけてくれてる。
   優しいな。
   実家にいつも一緒に帰ってくれる。ほんまにいつもお疲れ様、ありがとう。
   世界一かっこよくみえる。横顔も正面も後ろ姿も。
   ありがとう。の言葉を絶対に忘れない。わたしは恥ずかしくて中々言えない。
   だから、もじもじしちゃう。
   ネイルのモデルになって意見をゆってくれたり協力してくれているとこ。
   ご飯をいつも美味しいってゆってくれる。お野菜もたべてくれるとこ。
   お弁当の日は必ず、美味しかったよメールをくれるとこ。
   仕事しんどいやろ。いつでも辞めてええから。ってゆってくれるからがんばれる。
   たかしの存在がわたしを世界一幸せにしてくれているとこ。
   最後に、
   わたしと付き合ってくれたとこ。
   これからもよろしくね
  ともちゃんより

ほっとしたが、寂しくもなった。

その前後のSNSにインコを飼い始めた投稿があり、やはりともこちゃんは好きになると止まらないのだと悟った。犬を飼っているところへインコ、そして一匹ではなく二匹目も。
つまり、自分もインコと同じであり、自分であれば犬やインコを邪魔にしてしまう。
ところが、上記SNSの彼氏は、ともこちゃんと同じようにともこちゃんを好きなのだろう。
寒いエアコンで寝る度胸があれば、インコや犬も邪魔になるまい。
そもそも止まらない性格を認めてくれる相手と結婚できたのはないか。

あるいは、家の前で車にはねられたか。